『第3種探偵』
「あの~、サガワ商会さんはこちらでよろしいでしょうか?」
雑居ビルの3階の1室。小男が軽くノックの後ドアを開けると、そこには人相の悪い男たちが数名たむろしていた。
「お前、誰や?」
中でも気の荒そうな強面の大男が来訪者を睨み付ける。
「これはご挨拶が遅れました。私、探偵を務めておりますイサクラと申します。」
「興信所がウチに何の用じゃい?」
強面は突然の来訪者に対して、不信感を露にして凄む。
しかし、イサクラの方と言えば、頭ひとつ違う相手に対してまったく動じず言葉を続けた。
「探偵免許:通産奉行認定:第03910007号。俗に言う第3種探偵でございます。以後、お見知りおきを。」
「だっ、第3種!?冗談も休み休み言……」
強面の口を封ずるかのようにライセンスを男の鼻先へ示すイサクラ。
男はライセンスの真偽については納得しきっていなかったが、自分に警戒させる間もなく懐からライセンスを取り出した早業を見逃すほど素人では無かった。今のが仮に得物なら今しがた死んでいてもおかしくないのである。何やら得体の知れない不気味さに嫌な汗が背中を伝う。臆した事を悟られないように一歩身を引くのが精一杯だった。
……説明しよう!
第3種探偵とは幕府が認定した特殊探偵資格である。一般の私立探偵とは異なり、その業務遂行に至っては特別高等警護組(特高)を凌駕する捜査権限を有する。具体的には公共交通機関の任意占有、公的私的を問わず家屋事務所への強行立ち入り、必要とあらば殺人までもが許容される。当然ながら「業務遂行上」という縛りは存在するが、その業務の特殊性もあって遂行する本人により判定されるのが実情である。なぜそのような資格が存在するのか、についてはまたの機会に……。
「ワカヤマ!座れ!……若いもんの非礼はお詫びしよう。そんで公儀の探偵さんが何の御用やろか?ウチは公儀に睨まれるよな事に覚えは無いけどな」
奥に座っていたスキンヘッドの中年男が苦々しげに口を開いた。
イサクラは我が意を得たりと嬉々として応じる。
「いや、私の仕事は取り締まりではありません。ちょっと人探しをしておりまして。この人物に見覚えは?」
「……知らんな」
「そんなはずはないでしょう。これはあなたの親……もとい直属のご上司の息子さんではありませんか?」
「オヤジは知っとるが息子は知らん」
「そうですか、では質問を変えましょう。先月、この事務所から資金150両ほどが盗難にあっておりますね。何故か盗難届けは出されていないようですが、時を同じくして、この事務所職員のキヤマコウイチさんの行方が不明になっておりますね。ここまでは間違いないですか?」
……そんな事まで調べてやがるのか、と言いたげな表情でスキンヘッドは、ああ、と頷いた。
「そのキヤマさん、先日居場所がわかりましてね。名護屋で公儀に保護されました」
なに?と強面のワカヤマが思わず腰を浮かすが、スキンヘッドに一瞥されると肩をすくめて椅子に座り込んだ。
「それで、金は?」
「保護された時、キヤマさんはほぼ文無しでして、公儀の尋問にも『金は兄貴に渡した』の一点張りのようです。この兄貴というのが先ほどの写真の方、サガワトキヤさんでして、実際名護屋でキヤマさんと一緒に居たという目撃情報も在りました。」
「……ボンは確かに先月名護屋に行くと言ったきり行方がわからん、本当や」
「余人はともかく私に隠し事はしない方が良いですよ」
「くどい!」
「……そうですか。失礼しました」
事務所を後にしたイサクラは表に止めたモトラーダに跨り、お気に入りの玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべると、帝都高速を東へ向かって駆け出した。
続く
* * * * *
「陽雲社の荒岩です。先生、原稿ありがとうございます。
早速ですが思うところを述べさせていただきます。
……そもそも、「探偵」ってなんなんですか?
人探しくらい、ちょっと魔力のある人間なら自分で簡単にできることでしょう?
どうしてわざわざこんな特権振りかざして強引に聞き込みなんてしないといけないんですか?
え?魔力が一切存在しない世界?
いやいやいや、そんな世界で秩序が保たれてるってのはちょっと荒唐無稽すぎじゃないですか?
ファンタジーも結構ですけど、もうちょっと真面目に推敲してくださいよ~。お願いしますね」